先生宅に着いて、一息ついた矢先に、
玄関から、先約の客人が勢いよく出てきた。
私を一目見ると、挨拶もなしに、
ふんと鼻を鳴らして、足早に去っていった。
私は開けられたままの玄関を通り、
先生の家にお邪魔した。
案内されるまで、先ほどの客人のことを思った。
なぜ、あの客人は怒っていたのだろう。
書斎に案内していただくと、
先生は心地よさそうに、煙草をふかしていた。
煙草の煙は、書斎の小窓から、外へ流れていく。
流れでた外の世界は、青々しく、生き生きとして、美しい。
先生に挨拶を済ませると、
憤っていた客人のことを尋ねた。
「先ほどのお客さまは、なんだかずいぶん、
機嫌が悪かったようですが。」
すると、先生は顔をしかめて、言った。
「あれは、癇癪もちだった。困ったもんだ。」
「どうかなさったのですか。」
「それがね、みずさん。
彼は、投資で勝つためにはどうしたらいいのかと、
聞いてきたんだ。」
「先生は、どう、お答えになったのですか。」
先生は、清々しくお答えになった。
「勝とうと力むから、君は負けるのだ、と。
そもそも、勝負なんてしないことだ。」